和歌山県を流れる小川は、古座川の支流である。清流で綺麗な川だが、上流の『滝の拝』からカヤックで下る人は多くない。
水位が低いため、頻繁にライニングダウン(カヤックから降りて歩行)するからだろう。
今年の3月下旬に、僕と池仁江 [いけにえ](仮名)は、インフレータブルカヤック2艇で川下りをしに行った。エントリー場所(スタート地点)は『滝の拝』。
前日にインターネットで水位を調べたが、渇水状態だ。おそらく10回はライニングダウンすることだろう。通常なら違う川に行くところだが、低水位の小川を実体験したいから変更しなかった。
池仁江には、「去年に来て川下りをしたときよりも水位が低いから、今回は何回もライニングダウンするかも・・」とは事前に言ってある。彼は仕事の休日に親戚の手伝いで潜水士を時々していて、自然の過酷な状況には慣れているタフな男だから大丈夫だろう。たぶん。
軽々とカヤックを運ぶ池仁江。
彼は、このインフレータブルカヤックを1度しか体験していないのに、自力で準備している。
川の流れがほとんどない・・・。
上流にある滝へ簡単に進めてしまう。
ヤバイ。
去年に来たときは、必死にパドルを漕がないと滝に近づけなかったのに、今回は・・
滝の前で、まったりできる。
去年の写真と比べると、
水量の違いがよく分かる。
池仁江には不安を隠し、川下りを開始した。
早速、渇水の洗礼を受ける。
いつもなら簡単に通れる瀬が、石にひっかかり止まる。
川を下っていくと、浅いスポットが何度も繰り返し現れた。カヤックを降りて数メートル歩くだけならあまり疲れないが、数十メートルを歩かなくてはいけない場所もあり、かなり疲れる。
カヤック川下りではなく、カヤック川歩きになってきた。
水位があるところでも、パドルで漕ぐ手を休めるとカヤックは下っていかない。
前日の夜はテント泊をした。
笑顔の池仁江。
昨日あった彼の笑顔が消えてきている・・。
その後も、ひたすら川歩きが続いた。
スタートして2時間以上経つが、まだ中間地点だ。車が停めてあるゴール地点まで、あと3時間ほど川歩きをしなくてはならない・・。
足腰が弱い僕にはキツイ。ゴール予定地まで行くのはあきらめて、途中で脱出することにした。
数ヶ所、道に上がれそうな場所があったので、川岸から上陸して探索したが・・
出口が無い。
冷たい水に何度も足を浸けていたので、体も冷えてきた。
カヤックから降りて歩く。カヤックに乗り、漕ぐとすぐに川底の石にひっかっかる。カヤックから降りて歩く。
この繰り返し・・。
山奥の上流で川遊びをすると、やめたいときにやめれない・・。
こうなったら進むしかない。ひたすらカヤックを引きながら、川を歩いた。
美しいはずの景観が目に入らない。
歩いているときは、滑らないように足元の石を見る。カヤックを漕ぐときは、通れる深さがあるルートを探すのに必死だ。
『滝の拝』を出発して、もう5時間以上が経っている。風景が変わってきた。人工物が視界に入ってくるようになり、嬉しくなる。自然を満喫しに来たはずなのに・・。
「もうすぐ終わる・・」
そう自分に言い聞かせて、冷水で冷えきった足を前後に動かした。
携帯の電波は届かないが、GPSは衛星なので使える。自分の位置が分かるから気力がもつ。
カヤックに乗って漕げる深さがあるところでは撮影する気になり、久しぶりにシャッターを押した。
「あっ!」
僕達の車が見える! ゴールだ!
ブログに写真を載せるためにポーズをしてくれる池仁江。
彼の顔は、別人のようになっている。疲れた表情を写真に撮りたかったが、やめておいた。
ありがとう、池仁江。どこかで渇水状態の川を下るときは、また君を誘うから・・。
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僕は、これからもアウトドア仲間を増やして、カヤック川歩きを一緒に体験していきたいと思っている。
足腰弱いんだけど。
Taka
Writer : GAKUTAME OUTDOORS Kansai(GOS)Organizer Takayuki.M